2016年1月21日猪又労災裁判不当判決(東京地裁)出される

2016年01月22日 11:06

  1月21日13時10分 猪又労災裁判に対する東京地裁の判決が出されました。

   主文「原告の請求を棄却する」と、

   ライン整備の深夜・交代制勤務が、心身に与える負の影響、スカイマーク社に

  おける異常とも言える整備作業状況、確認主任者であった猪又さんの過重な

  心身への負荷等を全く認めない不当な判決となりました。

   2016年1月21日東京地裁猪又裁判判決その1.pdf (3210586)

   2016年1月21日東京地裁猪又裁判判決その2.pdf (3213208)
 

   闘いは継続される状況にあり、原告、弁護団、      猪又裁判を勝利させる会は、

  引き続きの支援・協力を訴えています。

 

   以下、弁護団と「猪又裁判を勝利させる会」の抗議声明文     

                                  2016年1月21日

          スカイマーク航空整備士・猪又労災死事件

             東京地裁判決に対する抗議声明

                                 猪又労災裁判を勝利させる会

                                 猪又労災訴訟弁護団

 

1 本日、東京地裁民事36部は、スカイマーク航空の整備士であった猪又隆厚さんの過労死労災事件について、労働災害の認定を求める原告の請求を棄却する、不当な判決を言い渡した。

この事件は、スカイマーク社に勤務するベテランの航空整備士(当時53歳)が、2008年(平成20年)6月28日、羽田空港への出勤の途中でクモ膜下出血を発症し、同年7月2日死亡したというものである。

遺族である原告(妻)が労働災害保険支給の申請をしたが、大田労基署は業務起因性がないとして不支給の決定をし、労災保険審査官への審査請求、労災保険審査会への再審査請求がいずれも棄却されたため、2011年8月3日、本件行政訴訟を提訴したものである。東京地裁は、約4年2ヶ月の審理を経て昨年10月8日に結審し、本日の判決を迎えた。

2 判決は、大田労基署による労災保険の不支給決定を追認し、本件が労働災害であることを認めなかった。判決における主要な争点と、これについての裁判所の判断は次のとおりである。

(1)深夜勤務・交代制勤務の過重性と労災審査基準

   深夜勤務・交代制勤務(シフト制勤務)は人間の生理的リズムに反するため、通常の日勤勤務と比較して心身への負担が極めて大きい。深夜の交代制勤務は、睡眠時間の短縮や睡眠の質の低下などの睡眠障害を招き、高血圧の原因となるとともに、睡眠中の脳血管内壁の修復を阻害して、動脈瘤の破裂など、様々な脳血管障害を生じさせる。そこで、労働者の健康を守るためには、深夜勤務の前後に十分な休養をとること、勤務時間の短縮、休憩や仮眠時間の確保などの配慮が求められる。

ところが、この点について判決は、本件の深夜勤務は「その大半はもともと予定されたシフト勤務」であり、交替制勤務が日常業務としてスケジュールどおり実施されている」ことから、「日常生活の範囲内の負荷といえる。」と判示し、多くの深夜勤務に従事する労働者の実感から乖離する不当な判断を重ねた。

(2)労災審査基準のあり方

過労死における労災保険の認定基準は、時間外労働の時間数を基礎としたものになっており、交代制勤務の特性や業務の特殊性に基づく過重性を十分に斟酌したものになっていない。所定労働時間内の勤務が過酷な故に残業時間が月間で45時間を超えることはあり得ない交代制勤務の職場において、このような労災保険行政が続く限り、交代制勤務の職場における過労死は防止できず、夜勤が必要な分野である医療・交通など様々な職場で、労災事故が発生する。

そこでこうした実態に即した司法審査が求められるところ、判決は、やはり時間外労働の時間数に拘泥した事実認定を示しており、その上で、上記のとおり事前に指定されたスケジュールどおりであれば特別な負荷は認められないという判断を示すという、深夜交代制勤務の特殊性を全く考慮しない判断によって、原処分庁の誤った認定を上塗りするだけの司法判断を繰り返した。

(3)スカイマーク社における過重な業務

航空整備(航空輸送)の業務には、定時性の要求による「タイム・プレッシャー」、人命に関わる事故の防止・安全確保の要求という精神的負荷、厳寒期や真夏などの過酷な職場環境、重量物・高所作業、高速化・高度な電子化・自動化する航空機への対応、変則的な交代制勤務、出張勤務など、特有の負荷がある。さらに、後発エアラインであるスカイマーク社では、有資格整備士の人数が足りず、慢性的な人員不足による過重なスケジュールが科せられていた。そのため、並行して複数の作業を強いられることや、休憩を取れないままの連続的作業など過酷な労働が常態化していた。

ところが、これらの点について判決は、原告の指摘する業務の実情には一応の根拠はあっても、その主張通りの実情であったとまで認めるべき証拠がないとして、原告が指摘した問題点をことごとく否定した。しかし、航空会社が明白に違法と認められるような業務の記録を残すはずはなく、職場の実情は遺族には判らなくて当然である。しかも本件では、そのような中でも、全日空の整備経験者の協力により、同じ法制度の下で同じ機種の整備を手がけてきた経験から、スカイマーク社の資料を読み解いて問題点を指摘したのである。これをもってしても過重な業務の実態が証明されていないとされるのであれば、およそ職場の過労死の救済は不可能と言わなければならない。

(4)認定事業場制度を満たさない配置

航空機ないし整備業務の複雑化・高度化にともない、航空法令は「認定事業場制度」を定めて、作業内容の重要度、難易度に応じて、一定の資格と能力を備える整備士による作業の遵守を要求している。ところが、スカイマーク社では人員不足と経済性の要求により、このルールを満たさないような作業スケジュールが日常化していた。

そのような中で、同社における整備作業の責任者であった被災者は、担当する作業の水準・品質を維持するため、機体から機体へ移動し、自ら作業の要所を実施するという高度な負荷、特別な負荷を受けていた。

このようなスカイマーク社の実態について判決は、上記のとおり、実態そのものの事実を認めなかっただけではなく、仮にそのような実態があっても、同社の業務の実情は明らかではないとか、各種のマニュアルやチェックリストが完備されている等の形式的な理由によって、その過重性をことごとく否定した。

(5)LCCにおける労働実態と航空の安全

こうした実情は、スカイマーク社のみならず、LCC各社に共通する問題である可能性が高い。航空自由化による規制緩和により、コスト削減と低運賃の競争が要求され、そのしわ寄せはどのエアラインでも整備作業などの「見えない」部分に現れがちだからである。

しかし、航空機の運航における安全確保は、整備の分野においても最後は人間による確実な作業と確認に依拠している。人員不足と過重な業務による航空整備士の過労状態が日常化しているならば、労働者の健康問題に留まらず、航空機運航の安全を脅かす要因となる。裁判所の司法判断が、この重大な社会的な要求に、どう応えるかが問われる。

この点について判決は、上記のとおり、原告が指摘した問題点をいずれも否定することにより、こうした不安要因、不安全要因をすべて放任する結果になった。

3 以上のとおり、判決は大田労基署の不当な決定を維持して、過酷な深夜勤務に従事してクモ膜下出血を発症した被害の救済を放棄した。

この判決は、過労死防止法施行から1年余が経過し、過労死の原因究明に国が取り組んでいるさなかに出されたものであるが、過労死の防止という社会的要請に反する極めて不当なものであり、今も様々な職場で深夜・交代制勤務に従事する多くの労働者の保護と救済を、一層困難にしたものである。

今後、交代制勤務の健康への重大な影響を社会的な認識として定着させて、仮眠や休憩など適切な労働条件の確保と、労働時間の規制を実現することが重要な課題となっているにもかかわらず、裁判所は、司法の役割を放棄した。私達は、この不当な判決に強く抗議するものである。同時に、私たちは、過労死防止法がその目的である過労死の無い社会の実現に向けた対策がとられるよう、今回の不当な判決を跳ね返して、すべての交代制勤務に従事する労働者の命と健康を守るために、必要な政策の実現を追求することを宣言する。そして、これらを通じて、規制緩和の影響を強く受け続ける民間航空における、航空の安全を確保するよう求めるものである。

以上