知っておきたい航空用語と技術  基本編

 

耐空性の継続 が整備の目的

飛行機は、20 年あるいは 30 年間お客様を安全に運ぶことが求められる。

そのためには耐空性を継続していくことが必要になる。

したがって、製造者には、その飛行機が設計要件を満たすことだけではなく、

新型式の航空機が耐空性があることを確認するための整備 のやり方も求められる。

設計要件と整備のやりかた、ふたつが揃って飛ぶための条件(型式証明取得の条件)が整います。

 

 

 

1、基本となる整備のやり方、整備方式がどう変わってきたか。

航空機整備方式の検討ロジックの変遷

整備効率の追求し、整備要目決定ロジックは変遷している。

1961 –FAA/Industry Reliability Program

1968 –MSG1 ➡B747 (classic)

1970 –MSG2 ➡B737-200 (portions), L-1011, DC-10

1972 –EMSG (European) ➡A300, Concorde

1980 –MSG3 ➡B737-400, B747-400, B757/767, A310, D8-300

1988–MSG3 Rev.1 ➡B777, A340, MD-11

1993 –MSG3 Rev.2 ➡B737-600/700/800, D8-400

2005 –MSG3 2005.1 ➡B787-8

2007 –MSG3 2007.1 ➡B747-8

2009 –MSG3 2009.1 ➡MRJ

 

 

1950年頃まで コンプリート オーバーホール方式

     ハードタイム(何時間以内と固定)による航空機の分解整備    

1950年頃から プログレッシブ オーバーホール方式

  部品ごとに整備の時間あるいは飛行回数で間隔を決め、航空機の分解整備

1960頃    一部 オンコンディション化

  システム、部品の機能・状態などを検査し基準を超えた場合交換、修理

1964年頃 信頼性プログラムによる一部装備品のコンディション モニタリング化

  信頼性データの管理体制を前提にハードタイムを撤廃し、故障するまで使用

1968年頃   MSG-1と呼ばれるロジックによる体系化

  ハードタイム、オンコンディション、コンディション モニタリングの

  定められたロジックによる合理的選択

1980年頃    MSG-3と呼ばれるロジックによる体系化 

  MSG-1を発展させ、「合理的選択の部分」を更に具体的なメンテナンスタスク

  として定めたロジック

 

航空機およびその装備品は、かつては決められた間隔で分解修理・交換していた。

現在はそれ以外の条件(ロジック)も定めて必要に応じて交換・修理がされている

事を知っているのは重要である。

 

 

 

2、現在の整備のやりかた、整備方式はどうなっているのか?

「整備のやりかた」の事を国際的には、 ICA (Instructions for Continues Airworthiness)と言います。

日本は、航空法施行規則の付属書などが収められている耐空性審査要領の第Ⅲ部附録 H項「耐空性を継続するための指示書  」

というところに取り決めがある。

 

新航空機は型式証明を取得が必要。その取得条件は設計要件と整備プログラム(ICA)の設定

 製造者は設計要件(CFR Part25) (CS 25)を満たすのみでなく、整備プログラム(ICA)も設定 しなければならない。

ICAの設定(CFR 25.1529) (CS 25.1529) (Instructions for Continued Airworthiness )

ICAの構成要件(Appendix H to CFR Part 25) (App H to CS25)

   CFR –Code of Federal Register by FAA (USA)

     CS   -Certification Specification by EASA (Europe)

     サーキュラー1-003  -日本の型式証明の場合

 

そして、具体的には、 世界共通の MRB (Maintenance Review Board、我が国では整備方式 審査会)  Reportという文書をもとにして設定される。

また、その基本的考え方は、現在はMSG-3  (MSG:Maintenance Steering Group) という検 討ロジックが使われている。

 

 MRB Report

新型式の航空機が造られ運航開始される前には、耐空性があることを確認するための整備 のやり方を決めることが求められ、

その基準となるのが、MRB Reportであり、

・何に対し(システム、装備品、構造部材)

・何時(実施間隔)

・何をする(目視検査、機能検査、交換、給油等)

という Maintenance Requirement(整備要目)をとりまとめ、設計国の監督官庁の認可を 得る。

 

 尚、MRBとは、FAA 内の組織名ですが、新型式機の整備のやり方を検討する体制に対して一 般的に使われる場合もあります。    
MRB Report の策定方法は、米国であればAC(Advisory Circular)121-22C1、わが国で はサーキュラーNo.1-3172に示されている。

その構成は、検討組織(Steering Committee とWorking Group(複数) )と検討ロジックPPH (Policy and Procedure Handbook) となる。

 

    ICAの具体化 MRBR設定プロセスの概要

 1. 採用したMSGロジックに基き、Working Group (航空機メーカー及び エアライン代表)にて整備要目の原案を作成。

    2. MRBR発行航空当局の承認後、MRBRとして発行。 製造国及び主要な運航国(US, EASA, Canada等)による承認

    3. PPH (Policy & Procedure Handbook) の設定 (機種毎の詳細な取り決めで、 採用するMSG, versionもここに定められる。)と

MPD(maintenance procedure document)をメーカーは発行

    4. 各航空会社はMRBRに基き整備プログラムを初期設定する。

 5.  運航経験、臨時改訂の反映等のため、MRBR改定設計の変更が行われる。

整備プログラム図面.pdf (85171)

 

 

 
MRBの検討組織
・検討組織は、製造会社(航空機、エ ンジン、装備品)、Launching Operator、監督官庁により構成されます。

 監督官庁は Observer の位置づけで参加します。

・製造会社は、MSG-3  の基本的な考え方をもとに、その型式機の検討ロジックである PPHを作成し、Steering Committee の承認を得ます。

・各 Working Group(Structure、Powerplant、Hydraulic System、Flight Control 等々) はPPH に従って、製造会社から提供される種々の技術データをもとに、   担当システムの Maintenance Requirement を決定していきます。

 その前提条件となる使い方(年間当たりの飛行回数・飛行時間、1 飛行あたりの飛行時間)や、C整備・D整備等の定時整備をどのような間 隔(飛行時間、飛行サイクル、あるいは暦月)で実施するか、または定時整備は設定しない で各整備要目の実施間隔だけを設定していくか、等々の大きな方針はPPHに盛り込まれて います。

・Steering Committeeは全体を取りまとめて MRB Report の原案として監督官庁に提出、 承認後 MRB Reportとして発行されます。

・監督官庁は Observer との位置づけで原案検討に参加しますが、検討の方向が安全規則の 考え方と大きなずれがないか、モニターし、必要によりアドバイスを行います。例えば、767 のMRB に於いて、Steering Committee はシステム関連のC 整備間 隔を3000 時間としてMRB Report 原案をまとめたが、

FAA は 最初2200時間を 2回、その後 2600 時間で3回実施し、問題なければ3000時間としたこともある。
・Launching Operatorとは新型式機開発の段階で購入の意志表示をした航空会社のことである。

彼らは開発の決定や促進の役割を果たし、自社の望む仕様を反映させたり、有利な購入条件 を獲得できる一方で、開発遅れに伴うリスクを負う。

 

検討ロジックは、

システム、構造、飛行機のゾーン等により異なり、また過去の事故による安 全規制の強化が反映されます。

近年では、燃料タンクの爆発防止や電気配線からの火災発生を防止する検討 ロジックも追加されています。 


現在の検討ロジック MSG-3の特徴は、

・費用の最小化

・設計上の安全性・信頼性水準の確保

・劣化した場合の水準への回復

・設計が不十分な場合、設計改善に必要な情報収集

MSG3説明図.pdf (86617)

MSG3プログラム システム.pdf (5682734)MSG3プログラム 構造.pdf (4120328)
 

設計と整備が密接に関連していることにあります。

以前の MSG-1 、-2は、整備の立場から、安全性や信頼性への疑義があったとしても、設 計に具申する仕組みはなかった。

MSG-3はその仕組みが検討手順 の中に反映、耐空性を維持するための整備手法がない場合には設計の変更が必 要となる。

 そのロジックにより、FAA FAR 25.1309 Equipment, systems, and installation.の安全基準はシステムや装備品が故障した場合の影響度に応じて、

求められる 信頼性の値が規定されている。特定のシステムや装備品に検査方法と実施間隔が設定された場合 には、CMR (Certification Maintenance Requirement) として特別な管理が必要となる。また、構造では、FAR 25.571 Damage-tolerance and fatigue evaluation of structure. にDamage Tolerant Design (損傷許容設計)の考え方が示され、致命的な破 壊に至る前に不具合を発見することができるように設計しなければならないとされており、

不具合を発見するための整備作業つまり、何に対し(どの構造部材のどの部分に)、何時(ど のような間隔で)、何をする(目視検査、磁粉探傷検査等々)が、要求される発見確率を満 たすよう設計される必要がある。
   

こうして発行されたMRB REPORTに基づき、
製造会社は、
MRB Report の各整備要目毎に、必要な整備員のスキル・人数・ 時間、実施する具体的作業項目(マニュアル番号や作業シート番号)、アクセスパネル番号 等の情報が網羅された MPD (Maintenance Planning Data) を発行します。

航空会社は、同時に提供される標準的な作業シート、あるいは自社用に編集した作業シートを使っ て実際の整備作業を実施し、整備士がサインをし、耐空性継続の証となる整備記録として保 存します。

事故が発生した場合には、この整備記録をチェックして必要な整備がきちんと実 施されていたかどうかの確認が行われる。