国土交通省交通政策審議会 航空分科会 技術・安全部会 航空機検査制度等検討小委員会 見直しの方向性 平成 30 年 7 月

2018年10月01日 11:04

 国土交通省は、交通政策審議会 航空分科会 技術・安全部会 航空機検査制度等検討小委員会において、「MRJの設計国として果たすべき責務等を含め、現行制度の課題とされた点に対応する。」として、2018年3月から計7回にわたり審議を実施。

 その検討を踏まえ、航空機検査制度の「見直しの方向性」を、現時点におけるとりまとめとして出された。 以下はその公表されている全文です。  



Ⅰ.はじめに
 近年、航空機から排出される CO2 の規制に関する新たな国際標準が策 定されたことに加え、国内の航空機産業の発展・拡大、航空機サプライチ ェーンの国際化に伴う関係国間の相互承認の進展、エアラインから独立 して航空機の整備等を行う MRO(Maintenance, Repair, Overhaul)ビジ ネスの定着等、航空機の安全確保を取り巻く内外の環境は大きく変化し ている。特に、現在開発中の国産ジェット旅客機 MRJ(三菱リージョナル ジェット)を契機に、今後、国内の航空機産業が発展・拡大していくこと が期待されており、これに合わせて、国産ジェット旅客機の運航開始後の 安全確保に万全を期すための制度を整備するとともに、今後の航空機の 安全確保のための国の役割についても見直す必要がある。
 こうした環境の変化を踏まえ、今後の航空機の安全確保等のあり方に ついて検討するため、平成 30 年(2018 年)2 月、交通政策審議会航空分科 会技術・安全部会に「航空機検査制度等検討小委員会」を設置し、同年 3 月 13 日以降、計 7 回の小委員会を開催した。小委員会では、これまでの 議論を踏まえ、現時点での航空機検査制度の見直しの方向性について、以 下のとおり整理した。
 
 
Ⅱ.見直しの基本的な視点
【視点1】航空機の安全性の確保  現行制度の見直しに当たり、現行制度の下で実現している航空機の 安全性と同等以上の水準を確保していくことを大前提とすること。
 
【視点2】国産航空機の安全性の確保  現在、2020 年半ばの運航開始を目指して国産ジェット旅客機の開発 が進んでいることから、国産航空機の安全性を確保するために航空 機メーカーが満たすべき基準を整備し、制度面から我が国の航空機 産業を支援すること。
 
【視点3】国際民間航空機関(ICAO)標準への適合や欧米基準との調和  外国政府が行った認証や検査結果の積極的な活用や国内製造者の国 際市場への参入及びシェアの拡大を図っていくために、新たに導入 された ICAO 標準への適合や欧米基準との調和を図ること。 


Ⅲ.見直しの方向性 


1.航空機の CO2 排出量基準
(1)現状及び課題

  ・平成 29 年(2017 年)7 月、 ICAO により航空機の CO2 排出量基準が 新たに策定され、2020 年 1 月以降、航空機の種類ごとに順次、 適用される。

 ・ 我が国初の国産ジェット旅客機が2020年半ばの運航開始を目指 している。
 
(2)見直しの方向性  

早期に、遅くとも ICAO 標準の適用開始(2020 年 1 月)までに は、我が国の航空機の審査基準に追加すること。
 
2.国産旅客機の耐空性維持に係る仕組み
(1)現状及び課題 

・ 国際民間航空条約上の航空機の耐空性維持に係る設計国の責務 を果たすため、欧米では、型式証明保有者(航空機の設計・製造 者)等に不具合情報の収集・分析、当局への報告が義務づけられ ている。

  ・我が国では、型式証明保有者等が耐空性維持のために実施すべ き活動が明確化されていない。また、航空機が損傷し、修理する 際に必要となる「修理設計データ」 (修理の計画)を設計国とし て承認する仕組みがない。
 
(2)見直しの方向性 

① 航空機の設計国としての責務

  ・我が国が航空機の設計国の責務を果たすために、航空機メーカ ーを通じて航空機の不具合情報を運航者等から収集できる仕組 みを構築すること。

 ・ 航空局、航空機メーカー及び運航者の役割分担も含め、国産旅客 機に対する耐空性の維持活動に関する諸手続を検討すること。 

② 修理設計データの取扱い

・  欧米と同様、航空機の運航開始後に多数の修理設計データを速 やかに承認できるよう、国が修理設計データを承認できる仕組 みや国に代わって航空機メーカーが承認できる仕組みも併せて 明確化すること。

 ・ 修理設計データの承認に係る対象範囲や承認基準について明確 化すること。
 
3. 装備品の整備・交換に係る制度 


3-1.装備品に対する安全規制
(1)現状及び課題 

 ・欧米では、国が能力を認めた認定事業場等が安全性を保証した 装備品でなければ、航空機への装備が認められていない。

・  我が国では、発動機、プロペラ等の航空機の安全確保のため重要 な装備品(以下、 「重要装備品」という。)以外の装備品について は、航空機使用者の責任において航空機に取り付けることを認 めている。 

 ・欧米にも輸出・運航予定の国産旅客機において、「重要装備品」 以外の装備品の基準適合性の確認に大きな疑念を抱かせるおそ れがある。

  ・装備品の製造者/修理事業者の安全確保上の責任が明確ではな く、装備品を取り付ける航空機使用者が全ての責任を負ってい る。
 
(2)見直しの方向性  

航空機に装備される全ての装備品・部品に対して、製造又は修 理を実施した者により、基準への適合性が確認されるべきこと を求めること。  


 3-2.国による「予備品証明検査」制度
(1)現状及び課題

・  航空機の装備品が飛躍的に高度化・複合化し、国が短時間かつ簡 易な検査のみにより装備品の安全性を総合的に判断することが 困難になっている。

・  機材不具合等で「重要装備品」の交換が必要となった場合、国の 「予備品証明」を受けるまでは航空機に取り付けることができ ず、運航便の遅延や欠航等が生じるおそれがある。

  ・また、実態上、国の直接検査である予備品証明検査をその都度受 検することとなっており、航空機使用者にとって、人的リソース やコスト等の面で負担となっている。
 
(2)見直しの方向性  

航空機使用者にとって負担となっているだけでなく、安全性の 確保の面でも万全とは言えないため、現行の形式的とも言える 国による「予備品証明検査」の見直しを検討すること。
 
3-3.国による発動機等の整備方法の指定制度
(1)現状及び課題

・  我が国では、発動機、プロペラ等の重要装備品について、国が限 界使用時間及び整備方法(=オーバーホール)を指定しているが、 オーバーホールを前提として設計されていない発動機が多数出 てきており、規制と実態が乖離した時代遅れの制度になってい る。

・  諸外国では、国が整備方法を指定せず、製造者の最新のマニュア ルにしたがって整備することが求められている。
 
(2)見直しの方向性  

国が整備方法を指定するのではなく、欧米と同様、製造者が指 定する最新のマニュアル等にしたがって整備する方式を採用す ること。  


3-4.見直しに当たって留意すべき事項 

 ・見直しに伴い、民間事業者等にとって過大な負担とならないよ う、運用面で十分に配慮すること。 

 ・輸入装備品の安全性を確保するとともに、円滑な我が国への受 入れを行うため、欧米を始めとする外国との整備分野を含む相 互承認協定を早期に締結すること。 


4. 航空機の更新耐空証明検査に係る制度
4-1.航空運送事業機の耐空性の維持
(1)現状及び課題  

 ・航空運送事業機の耐空証明の有効期間は、国土交通大臣が定め ることとされており、高度な整備能力、体制等を有する航空運送 事業者が運航する航空機に対しては、有効期限を「当該事業者の 整備規程の適用を受けている期間」とする「連続式耐空証明」を 与えている。

  ・「連続式耐空証明」を取得している航空機を除く航空運送事業 機のうち、約 3 割は依然として 1 年毎の国による更新耐空証明 検査を受検しており、民間の能力を活用して国の検査を省略す る「航空機整備検査認定事業場」制度の活用が十分に進んでいな い。
 
(2)見直しの方向性

  ・現行の「連続式耐空証明」及び「航空機整備検査認定事業場」制 度の活用促進が適切かつ現実的である。

  ・「航空機整備検査認定事業場」制度の活用を促進するとともに 航空運送事業者に一層の能力向上のインセンティブを与えるた め、認定事業場として一連の整備が継続的に実施されている場 合に耐空証明の有効期間を整備実態に即したものにする等の仕 組みを検討すること。 


4-2.航空機使用事業機及び個人所有機の耐空性の維持
(1)現状及び課題

 ・ 航空運送事業機(4-1節)と同様、 「航空機整備検査認定事業 場」制度の活用が進んでいない。

 ・ 航空機使用者による日常の整備の適切な実施が担保できないこ とから、1 年毎の更新耐空証明検査の際に検査・確認すべき点が 多いこと、さらに、飛行 ・検査を含む二重の実機検査(社内実機検 査と国(航空機検査官)が立会う実機検査)を実施していること が使用者及び国の双方にとって大きな負担となっている。

  ・近年、航空機使用者の不適切な整備に起因するトラブル等も散 見されるほか、小型機の事故も引き続き発生しており、航空機使 用者に適切な整備の実施・耐空性の維持を義務づけることなく、 国が 1 年に 1 度だけ、事後的にこれらを確認する現在の仕組み には限界がある。

  ・一方で、大きな自家用機使用団体等がなく、組織化されていない 個人所有機に対しては、年1回の国による更新耐空証明検査が、 国からの安全情報の伝達、使用状況や安全性の実態の把握の好 機となっている。
 
(2)見直しの方向性

  ・航空機使用者に対して、適切な整備を通じて航空機の耐空性維 持を求める実効性のある仕組みを検討すること。

  ・引き続き 1 年毎の更新耐空証明検査により、航空機使用者の整 備の実施状況を確認すること。

  ・一定規模の航空機数を有し、組織的な整備体制を有する航空機 使用事業者や官公庁が使用する航空機、認定事業場に日常整備 等を全面的に委託している・個人所有機等を対象として、任意に 整備規程を設定し、それに基づく継続的な整備が実施されてい る場合に、耐空証明の有効期限を整備実態に即したものにする 等の仕組みを検討すること。


4-3.見直しに当たって留意すべき事項 

 「航空機整備検査認定」の活用促進による航空機使用者と国と のコミュニケーションの機会減少を考慮しつつ、航空機使用者 の安全意識のより一層の向上を図るため、安全講習会の枠組み の拡充等による安全啓発を行っていくとともに、これまで国が 担ってきた役割を認定事業場が的確に果たせるように指導・監 督をすること。
 
5.その他併せて検討すべき事項

  ・国産航空機の耐空性維持活動の実施に必要な体制の構築

 ・ 航空機検査官の育成・技量維持

・  航空局と民間事業者等とで構成される定期的な基準の策定・見直し 活動の実施
 
 
Ⅳ.今後に向けて
今回とりまとめられた「見直しの方向性」を踏まえ、移行措置も含めた 民間事業者等とのより詳細な制度設計・枠組みの検討、調整や実現可能な スケジュールの検討等を実施するとともに、今後の航空機の安全確保に 係る航空局の役割についても検討し、本年冬以降に最終とりまとめに係 る審議を実施する。 

                                      以上