新FOについて航空連見解

2016年05月21日 08:03

4月22日、航空労組連絡会は以下の見解を確認しました。

 

安全性を高めるために

整備士の飛行間点検をなくす「新FO(フライトオペレーション)」は反対

航空労組連絡会・整備連の見解

 

 全日空は2016年1月27日から、「新FO(フライトオペレーション)」を導入し、全機種、整備による飛行間点検を廃止し、有資格整備士を配置しない運航体制に移行した。それは「現在、ANAが保有する全ての機体は、メーカーマニュアルでは、便間において、整備士による外周点検(Walk Around Check)は不要であり、「不具合の無い機体に整備士は配置しない」というものである。

 

 本問題は、2008年第3回航空安全基準検討委員会が発表した航空安全基準「アップデートプログラム」のひとつである飛行間整備の見直し「規制緩和」が端緒となっている。しかし、不具合の早期発見、整備士の技量維持向上の観点から、乗員も含めて整備士による飛行間点検は必要との声が出され、その後も主な航空会社においては機側に整備士が配置され安全を確保してきた。日本航空では、2011年4月B737-800に「有資格整備士配置なし」が提案されたが、「全ての航空機において飛行間点検を整備がするべき」との日本航空ユニオンなどの取り組みもあり、制度として国家資格保有者を毎便配置し現在も運航している。更にJ-AIRについては欠航を減らす観点ではあるが、地方基地にも整備士が必要と認めている。

 

   今回の導入について、全日空は「整備士の有効活用による不具合修復・イレギュラー対応・大幅遅延低減など品質向上」と説明している。しかし、背景には有資格整備士不足があり、新たな人員を養成するのではなく「配置しない」とすることで「必要数」を大幅に減らし、更に人員削減によるユニットコストの低減、コスト競争力の強化を目指すことに狙い・目的がある。

 

問題は安全水準の切り下げにある。

全日空は「これから整備士は点検しないので、耐空性に影響がある不具合は、乗員・グランドハンドリングで発見する必要がある。」と、整備士による不具合の早期発見の視点がなくなっている。 更に、整備を配置しないため、早めに対処できた整備上の基準値を捨て、出発可能かどうかの最低限の基準値を持ち出し、耐空性に直接影響があるなしで判断するという、これまでより低いレベルまで下げた説明をしていることである。 

 

 もう一つは、航空機の正常な状態を知ることは整備士にとって大変重要な事であり、これまで熟練ライン整備士は、飛行間でノーマルな状態を常に確認する事が出来、また、飛行間の乗員とのコミュニケーションで飛行中の状況・不具合を理解し、ライン整備士としての技量を上げてきた。運航便に整備士が配置されないことになれば、その機会は激減し、技量の維持・向上をはかることは困難を極めることとなるであろう。

 

 整備士は飛行間に(不具合)事象を時間軸的に観察し、五感を活用して点検している。また、専門的な訓練も受けており、飛行間における整備士の点検・配置は旅客の安全に直結し有用であることは疑いないことである。 

 乗員が出発時の短時間に操縦室などの確認・作業をしながら行う自身の点検と併せて、整備士によって機体の安全性が確保されている、との乗員の認識とも一致しているのである。

 

 2007年08月20日 ボーイング737-800型機 那覇空港における中華航空の炎上事故は

「10時32分、同機は駐機位置の41番スポットに到着、ベルトサインが消え、乗客が手荷物を取り出し始めた。このとき地上にいた整備士(日本トランスオーシャン航空の受託整備士)が右主翼燃料タンクから燃料が漏れていることを目撃。

10時33分、整備士はただちに機長にエンジン停止と消火装置の作動および緊急脱出をインターフォンで要請。乗客は、乗員の緊急脱出の指示で全員が脱出用シューターで機外に避難、乗客には幼児2人も含まれていたが無事全員脱出した。まだ余熱のあったエンジンに引火し、大火災が発生した。」(朝日新聞 2007年8月21日)というものだった。

 航空機がどのようなものかを熟知している訓練された航空整備士が飛行間で果たす役割を体現した事例として大変重要である。

 

 本問題は、政府の「安全規制緩和」が深く関わっており、前述した「安全基準を見直す アップデートプログラム」には、「航空機製造者が飛行間点検を設定しない新航空機に対しては、機長による出発前点検で安全性の確認と不具合発生時の整備体制を整えれば「飛行間点検を省略しても安全上支障はなく義務付ける必要はない。」とされ、結果として整備士の配置をゼロにすることにつながる。航空連はそれに対して、見解表明を行い、局交渉を積み重ね、2012年9月には、「安全な航空機を最終的に乗員に引き渡す役割を担う運航整備士の点検不要とするには極めて慎重な判断が必要である。ターンアラウンドタイム(飛行間の停留時間)が短時間化する過程において、整備士及び運航乗務員の両者による目視点検こそが確実な点検と安全運航に貢献すると考える。」との見解を表明していた。

 

 全日空が導入した「新FO」は整備士ばかりか、共に安全を支える運航乗務員と客室乗務員など、現場を本当に知っている機側の専門職が納得していない事実を直視することが必要である。私たちは、安全性の低下を招く現在ある整備士の飛行間点検をなくすことには反対である。

2016年 4月 22日 航空労組連絡会